第54章 嵐前の日常
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「これ……!!」
継子達を先に帰らせた杏寿郎は、朝日が昇る中すっかり緑色になった桜並木へ桜を連れて来ていた。
そして桜は着いて早々に杏寿郎が見せた物に目を丸くさせていた。
杏「うむ。結婚指輪だ。自分で買いに行くことは叶わなかったが何とか用意出来た。壊れてしまったあれは婚約指輪だっただろう。」
「…………………………。」
指輪を一人だけ付ける気にはならなかった為 未だに桜の薬指は空いたままであった。
杏寿郎はそれをずっと気にしていたのだ。
涙を滲ませる桜に大きな手を差し伸べると杏寿郎はそろそろと伸ばされた桜の手をそっと掴み、細い薬指に指輪を通してから指に口付けを落とした。
その甘い仕草に桜は赤面する。
杏「改めて俺の妻になってくれてありがとう、桜。」
「……こちらこそ…私を選んでくれてありがとうございます。私も貴方に付けて良いですか?」
杏寿郎はパッと顔色を明るくさせると快諾し、桜が自身の指を掴む様を嬉しそうな瞳で見つめた。
そして付け終わると杏寿郎は桜の額に自身の額をこつんとくっつける。
桜は一瞬驚いた顔をした後すぐ心底幸せそうに笑い、杏寿郎もそれにつられる様に笑った。
「ずっと、ずっとずっと大事にします。」
杏「……ああ。」
そう言いながら微笑み合う二人を、まだ色付く朝日は雲に遮られること無く柔らかい光で包んでいたのだった。