第10章 お見送りとお父さん
戻ってきた桜は、掛け布団を羽織り、槇寿郎の腕を掴むと縁側まで引きずろうとする。
槇(挨拶のときは酷く緊張していたのに、何だこの変わり様は…。)
その無遠慮さに、まるで幼い女の子を見ているような気分になり、意地を張るのも馬鹿馬鹿しくなった。
"自分で歩ける" と立ち上がると、槇寿郎は仕方なく羽織りを着てから口をつけていない新しい酒瓶を持ち、縁側へと向かう。
槇寿郎が座ったのを確認すると桜は少し気分を落ち着かせ、酒瓶を槇寿郎と自分で挟むようにして座った。
「おちょこ、持ってください。」
そう言い酒瓶を両手で持ちながらふわりと笑う桜は、先程までのじゃじゃ馬と同じ人物かと疑うほど 穏やかで不思議な空気を纏っている。
槇寿郎はその変わり様を見て、一瞬固まってしまった。