第54章 嵐前の日常
杏「父上には話せないな。」
「そう、だね。また引退させたがるに決まってる…。」
そう言うと再び横抱きにされた桜は自身の髪に触れる。
「私も格好や髪は見られちゃった…。思い切って男の子みたいに切ろうかな。」
その言葉に杏寿郎はピシッと固まった。
杏「……隊服と羽織りを変えれば十分だろう。」
「不十分だよ。そういえば前々から私の髪なんかを欲しがっていた隊士さんがいたな…。切ったら捨てるよりは良いだろうしあげ、」
杏「駄目だ。誰だそんな変態じみた事を言う男は。」
「……え…………?い、言わない。杏寿郎くん、目が怖くなってるよ。」
杏「いいから名を教えてくれ。その男は何を考えているんだ。君が独り身だと思っている男か。」
「や、やだ。何かに……使うって言ってた。それにもう直接私達を見た人以外は私を独り身だと思ってるよ。」
桜の言葉に杏寿郎は静かな怒気を漏らすと速度を上げた。