第54章 嵐前の日常
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桜は深く息を吐くと耳を澄ませ、状況をなるべく細かく把握しようとした。
(鬼の他には少しも音がしない。きっと生存者はいない。折られている骨の音がずっと軽いままだ。……女性…、ううん、子ども…?)
鬼は機嫌が良いのか鼻歌を歌っている。
それが桜の嫌悪を強く濃くさせたが、その歌のお陰で鬼は桜に気が付いていない様に思えた。
(鬼が近くに来たらこの姿は変えなければいけない。もし奇跡的に生存者がいても鬼の前で撫でちゃだめ。じゃあ…見つかれば人の姿で黙って食べられるしかないの…?いや、もしかしたら子どもしか食べないのかもしれない。殺されたふりをして怪我を治せば…、)
鬼「さてと…。人の食事を盗み見するとは良くねぇよなあー。悪趣味だぜ。」
その言葉に桜は目を大きくさせたが強い嫌悪から冷めたままの頭は正常に働き、すぐに目を細めると人の姿に戻った。
「悪趣味はどっちよ。……子どもばかりじゃない…。」
桜は羽織りで顔を隠しながら立ち上がると隙間から見える目の前の凄惨な光景に顔を顰める。