第10章 お見送りとお父さん
「とっておきのおつまみも作ります!明日は!」
「槇寿郎さんが好きなお酒は何ですか?私は日本酒が好きです。」
「最初は "辛口以外は邪道だー!" なんて思ってたんですが、甘口も意外といける事に最近気が付きまして…。」
「でも焼酎の魅力はまだ分からないんですよね…槇寿郎さんは焼酎お好きですか?」
息子達は落ちぶれた自分を嫌っているに違いないと槇寿郎は思い込んでいた。
しばらくそういう環境で過ごしてきた。
そんな中現れた怪しい白猫は臆さずうるさい程絡んでくる。
おまけに図々しい。
だが久しぶりに向けられる好意に槇寿郎は妙な気分になった。
―――まあ、いいか。付き合ってやっても。
そんな考えに至ってしまった。
「………好きにしろ。」
そうぼそりと呟くと、スパーンと襖が開いた。
そこに座っているのはこんな夜更けに振り袖を着た見知らぬ女。
普通ならぎょっとする所だが、その女は愛らしい目を嬉しそうに輝かせて花のように笑っていた。
そして、『ああ、こいつは無害だ。』と思わず確信させるような、不思議な雰囲気を纏っている。
「ありがとうございます!!」
「あーやっぱり槇寿郎さんは思ったより怖くない人なんですね!よくよく思い返したら襖の下敷きにしたのに私怒られてないんですよね、むしろどくまで体勢変えないでいてくれたし…、」
「…それで、」
興奮して話しながらちゃっかり部屋に入ってきた桜は、スッとおちょこを差し出して笑った。
「槇寿郎さんのお好きなお酒は何ですか?」