第10章 お見送りとお父さん
「槇寿郎さん、いまお時間ありますでしょうか?」
槇寿郎は聞き慣れない鈴の音のような女の声に眉を顰めた。
槇「………何の用だ…?」
「先ほど襖で下敷きにしたお詫びをしに来ました。」
槇(先ほど…?あの猫か……。)
槇「詫びもいらん。帰れ。」
「今夜は月がよく見えますし、着込んで縁側で一緒にお酒を飲みませんか?」
槇「良い酒でも買ってきたのか?」
槇寿郎は意地の悪い声を出した。
「いえ、槇寿郎さんの部屋にたくさんあるのでいいかな、と。」
桜のあっけらかんとした口調に槇寿郎は薄く口を開いた。
槇「……謝りに来たんだよな?」
「はい!」
「明日良いお酒を買ってきます!今夜は目を瞑ってください。」
飲む前提みたいになっている事に槇寿郎は戸惑う。
槇寿郎は酒に溺れてから、息子達に辛く当たり、すぐ怒るようになった。
だが、その反面、打たれ弱く、意外にも押しに弱い。