第10章 お見送りとお父さん
お風呂を出ると、一度猫の姿で千寿郎に乾かしてもらう。
「ごめんね何回も…。」
千「いえ!毛がふさふさで気持ちいいです!」
申し訳なさそうにする桜に、千寿郎は本当に嬉しそうな顔で微笑んだ。
その笑顔に桜は体だけでなく心もぽかぽかとした。
そして寝間着用に浴衣を勧められたが、明らかに母親のものだった為遠慮した。
(さすがに形見は着れない…。)
桜はそうして振袖姿で髪を乾かしながら、おちょこを拝借した。
先ほど無礼を働いた、"槇寿郎" という名であることが分かった父親の部屋へ行く為だ。
途中で客間の机の上にタオルを置き、またドジをしないようにおちょこをしっかりと持ち直す。
もう少し時間を空けてから行くべきか、それともなるべく早くいくのが誠実なのかで とても迷ったが、桜は迷ったら積極的な方を選択する質なため 結局行くことにした。
槇寿郎の部屋の前に着き、深呼吸すると膝をついて意を決した。
本当ならここでドジを働いた猫の姿にきちんと戻ってから声を掛け、おちょこを槇寿郎に運んでもらう予定だった。
しかしこの時、桜は自分の姿が人のままである事を忘れていた。