第10章 お見送りとお父さん
千「先に入ってください!」
必死に抗議する千寿郎の背中を押しながら桜はお風呂へ向かっていた。
「まーまーいいからーいいからー。」
押されながらも千寿郎は足でブレーキをかけようとしている。
しかし優秀な千寿郎によって磨かれた床はよく滑った。
千「僕は最後でいいですから!」
脱衣所の戸の前まで来ると桜は千寿郎をくるっと回転させ腕を掴んだ。
そして背伸びをして目線を合わせる。
「千寿郎くんにとっては毎日してる事だろうけど、家事も鍛錬も頑張るのって本当にすごいんだよ。」
桜は不思議そうにする千寿郎を見て、眉尻を下げて微笑んだ。
「だから、すぐ入って休んで!私の事気にしてすぐ出てこないで、しっかりお湯に浸かるんだよ?」
そう言って千寿郎の頬を両手でぽんぽんと軽く叩く。
それでも千寿郎が困った顔をしているので桜は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「それとも今お姉ちゃんと一緒に入る?」
桜が顔を覗き込むと千寿郎はビクッと肩を震わせる。
千「…っ!いえ!一人で入ってきます!!」
そう言うと耳まで真っ赤にしてバタバタと脱衣所へ入っていった。
もちろん冗談なのに、すぐ可愛い反応を見せてしまう千寿郎を桜は微笑ましく思った。
言い付けどおり、しっかり温まって出てきた千寿郎の濡れた髪をわしゃわしゃと拭くと桜も風呂の支度をした。
猫の姿では自分を洗えないので千寿郎に手伝ってもらい、人の姿でもう一回。
(ちょっと大変だなあ…。千寿郎くんにも申し訳ないし……。)
バスグッズが恋しくはなったが、桜は銭湯に行かなくても湯に浸かれる事に感謝した。
(煉獄家やっぱりすごいなあ…結構広々としてるし…。)