第10章 お見送りとお父さん
桜は人の姿に戻ると、千寿郎の肩を掴んで見上げる。
「千寿郎くんはお父さんが何を言っても、私の肩を持たなくていいからね。」
真っ直ぐ目を見て、なるべく力を込めて言った。
千寿郎は眉をハの字にして、今日見た中で一番困った顔をしていたが 桜の真剣な表情を見ると、
千「……………はい…。」
と、瞳を揺らして小さく呟いた。
それを聞いて桜はにこっと笑い、ふわりと抱きしめた。
そして慈しむようにゆっくりと背中を撫でる。
(本当に情けない姿を見せちゃったな……。)
桜は転がる酒瓶を見ながら、"いつかこれを減らすことが出来たらいいな…" とぼんやり思った。
(そうしたらきっと、この家は自然な明るさに戻る…。)
「………ねえ。」
声をかけられ、ぽーっとした顔の千寿郎が自身より低い姉の顔を覗き込む。
「これからもお父さんに積極的に関わったら…千寿郎くん達に迷惑がかかるかな…?」
まだ会ったばかりだから緊張するとはいえ、あの父親の年齢なら怖いとは思わない。
それに桜は "案外悪い人じゃないんじゃ…" と感じていた。
千寿郎は一瞬とても困った顔をしたが、
「…… "追い出せ" って言われたら "神様です" って返してみます。」
と優しく笑ってくれた。