第54章 嵐前の日常
それを見て桜は苦笑すると杏寿郎に『妊婦さんなので声量を少し抑えてください。』と耳打ちしてから女の手を優しく握った。
「見たところここの近くにはお家がありませんが 少し離れた所に村がありますね。噂はそちらで…?」
桜の優しい体温と柔らかい手に緊張が解れると女は頷いた。
女「正確にはその村から物を売りに来る顔見知りから聞いたのさ。あの村に寄って 更に隣の山向こうの村に物を売りに行った旅の者が皆揃って帰ってこないと。『帰りにまた寄ると言っていたのに』と言っていたねえ。」
杏「そうか。ありがとう。」
杏寿郎は言われた通り声量を抑えて礼を言うとバッと踵を返す。
杏「鬼の姿を見た者が居ないようなら聞き込みは終わりだ。入り口の道は一本、同じ場所に巣食う鬼ならば何処かしらにねぐらがある可能性も高い。今出来る事を探しに行くぞ。」
炭「はい!!」
善「……うぅ…、禰豆子ちゃん…。」
「うんうん、善逸くん、その調子だよ。禰豆子ちゃんの為に頑張ろう。」
伊「…気持ちわりぃやつ。」
善「何だよその言い方!!俺はお前らとは違うの!!!」
炭「善逸、しーっ!!」
「大きな声を出しちゃだめよ!お腹に響くでしょう!」
杏「行くぞ!」
杏寿郎は女にぺこぺこと頭を下げている桜の手を握ると女に礼を言ってから山へ入っていった。