第54章 嵐前の日常
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善「もういいですよ…。確かに一晩中体がおかしくなるのは地獄ですけど、仕方ないことも、あなた達が止められないことも分かってるんで。」
「ご、ごめんね…。」
桜は体を撫でながらどこか投げ遣りな態度の善逸に眉尻を下げた。
その会話を聞きながら杏寿郎は腕を組んで大きな目で二人を見つめている。
杏「君は色香の影響だけを受けているのか?それとも声も聞こえているのだろうか。」
その言葉に善逸の体は分かり易く跳ねる。
それを見て桜は目を大きくさせながら赤面した。
「えっ……そ、そんなに耳がいいの…!?あ……じゃあ…昨夜の…声も…会話も………、」
そう言い淀みながら桜の目には羞恥から涙が滲んでいく。
それを見ると既に体が治った善逸は部屋の端までザザーッと後退った。
善「いや!いや!!全部じゃないですよ、流石に!!!れ、煉獄さんの大きな声は聞こえますけど…桜さんの声は……ほとんど…、」
そう言いながらも矛盾するように善逸は土下座をしていた。
その様子に杏寿郎は感情を読み取りにくい笑顔を顔に貼り付ける。