第10章 お見送りとお父さん
桜は一度呆けたように固まったが、急いで杏寿郎を追う。
(んん…!閉めるのはムリ!!)
杏寿郎の部屋を開けっ放しにして玄関へ走る。
運良く開いていた戸の先を見ると、ちょうど杏寿郎が門の前でお見送りに来た千寿郎の頭を撫でているところだった。
(間に合って良かった……。)
任務じゃないとはいえ、見廻りだって安全とは限らない。
千「桜さん。」
隣に来た桜に気が付いて千寿郎が優しく笑う。
杏「桜。此処にも来てくれたのか。ありがとう。」
そう言う声は鍛錬のときのように大きくはないが、芯が通っていて頼もしさを感じる。
「はい。お気を付けて!」
杏「うむ!」
いつもの笑顔のままそう短く答えると、杏寿郎は出発した。
「杏寿郎さん速いよねえ…私いま消えたようにしか見えなかったあ……。」
そう間の抜けた声で言うと、
千「それが普通だと思います。」
と笑った。
千寿郎くんはちゃんと見えるのかな…とぼんやり思いながら、ふわっと人の姿に戻る。
「………んー…。」
桜の声に首を傾げる千寿郎。
「あのね、猫のときの痛みを引き継がないみたい。あんなに走ったのに体軽いの…。」