第51章 家族
杏「……あるにはあるがきちんと妻がいると断っているぞ。それからどちらかと言うと男からの方が多い。」
(妻って…最近じゃないの……。)
「…………そう。」
桜は訊かなければ良かったと思いながら視線を外すと杏寿郎に背を向け、後ろから抱き締めさせるように杏寿郎の腕を自身に回す。
杏「桜…不満があれば言ってくれ。断り方が悪かったのか。」
「想われること自体を面白く思っていない。でも杏寿郎くんは無自覚で人の好意を集めてしまうから気にしてても仕方ない。」
杏「それを言うなら君もだぞ。」
杏寿郎が思わず不服そうにそう返すと桜は不機嫌そうな顔のまま振り返った。
「私は頬を染める相手の頭を撫でたりしてない。」
杏「君だって優しい笑顔で治療をしながら "格好良い" などと褒めていただろう。」
「それは戦い方の話です。口説いてたみたいな言い方やめてください。」
そう言うと桜は布団を出てもう一組のあまり使われていない布団を敷きだす。
杏「……今日は一緒に寝るのではなかったのか。」
「喧嘩しちゃうなら意味ないもの。……ぶつけてごめん。おやすみなさい。」
離れた場所に敷いた布団に入ると桜は背を向けて丸くなり滲む涙を静かに拭った。