第51章 家族
(面白くない…、面白くない。他の女の人と噂になるのも、たくさんの隊士さんに私の人だって思われないのも。すっごく面白くない。でも……、)
桜はフッと顰めていた眉の力を抜くと首から顔を離す。
予想通り杏寿郎は嬉しそうな顔をしていたが、桜は浮かない顔でその跡を撫でて消していった。
それを見た杏寿郎は止めようと桜の手を掴もうとし、直前でハッとするともどかしそうに手を引っ込めた。
杏「桜、何故わざわざ付けた後に消すんだ。他の者に見せてこそのものだぞ。」
「継子さんもいるし、柱としての威厳もなくなるもの。……このくらいあからさまならね。」
そう言いながら桜は身を乗り出し、ぐいっと杏寿郎の頭を前に倒させると綺麗な色の髪を梳いて項に噛み跡と華を散らせた。
最後に優しく口付けをしてから体を離すと自身の珍しい態度に少し驚いている杏寿郎を見つめる。
「ここなら…風で髪がなびいた時にしか見えない。たまに見えるくらいが丁度いいと思う。……寝よう。」
いつもと違った固い声色に杏寿郎は眉尻を下げながら頷き、布団に入った。