第51章 家族
杏「では風呂に入ったらすぐ寝よう。寝不足の顔をしているぞ。」
杏寿郎は『治せば良いだろうに。』と不可解そうに言いながら桜の目元を優しく撫でようとして手を引っ込める。
杏「同じ布団に入るのも駄目なのだろうか。自然と触れてしまいそうだ。」
「……そ、そんなに忠実に守らなくても…、」
杏「これは罰なんだぞ。」
寂しさと自身から積極的に求めることの厄介さから桜がそう言うと 杏寿郎は食い気味にその考えを否定した。
杏「今後この様な事態に陥らないよう、きちんと受けなければならない。実際この罰は俺にとても効果がある。」
(私にも影響あるんだけどな…。)
「……今日は一緒に寝させて下さい。」
桜があからさまに寂しそうな声を出すと杏寿郎は少し目を大きくさせた後に笑みを浮かべて良い返事をした。
―――
桜が風呂を上がって就寝の挨拶がてら千寿郎と槇寿郎に再び怒られてから離れへ戻ると 杏寿郎は敷いた布団の上に座りながら振り返り、優しく微笑んだ。
桜は自分だけのものではなくなったその柔らかな笑顔を見ながら 黒くもやもやとした感情が湧いてくるのを感じた。