第51章 家族
視線を遣ると相変わらず怖い程無表情な千寿郎が二人を見ていた。
杏「千寿郎!出迎えご苦労、」
千「どの様なお顔でどなたとお話を?焦がれさせたいとは何故思ったのでしょうか?それなりの理由がお有りだったのですよね…?」
その言葉と冷たい声音に流石の杏寿郎もピシッと固まる。
そんな杏寿郎に答えを促す様に千寿郎が首を傾げた。
(………………何か一気に玄関の温度が下がった気が……。)
桜は固まってしまった杏寿郎の代わりに眉尻を下げながら噂の説明をした。
仔細を聞き終わると千寿郎は小さく息をつく。
千「悪気がなかった事は分かりました。では何故焦がれさせたいなどと思われたのですか、 "兄上" 。」
千寿郎は声に力を込めながら杏寿郎を指名するとじっと静かに燃える瞳を向けた。
(普段は優しい目だけど こうしてると眼力の強い杏寿郎さんと兄弟なんだってよく分かる……。)
桜がそう思いながら喉をこくりと鳴らすと、その横で杏寿郎は気を取り直す様に拳を握る。
杏「焦がれさせたかった理由は……甘えたがりになった桜は大変愛らしいのでもっと見たいと思ったんだ。先程の女性に三日で十分だと言われたのだが長ければ長い程良いのではと、」
千「それで三週間も…?兄上の耳には入らない様に気を付けていたのですが、桜さんは最近 物憂げで儚い雰囲気を纏っていた様で『口説き落とす好機だ』という噂が流れていたそうです。それから…、」
千寿郎は言葉を切ると噂を拾い聞きしてきた張本人である善逸に視線を遣った。