第50章 すれ違い
杏「こうしてしっかりと抱き締めていても君は消えるのだろうか。俺は来世を信じると言ったが 今世で君を見送る覚悟は少しも出来ていない。する気もない。」
「………まさかとは思いますが……戦う前から死ぬ気なのではありませんよね……。」
杏「勿論無駄に死ぬ気は毛頭無い。だが、責務を全うする為に立派に死んだのであれば母上は褒め、父上は認め、喜んでくださる。千寿郎も誇り高いだろう。」
その杏寿郎が時折見せる危うさに桜は眉を寄せた。
「槇寿郎さんは……悲しむし怒りますよ。千寿郎くんだってすぐそんな風に割り切れません。」
杏「そんな筈はない。俺は煉獄家の長男で炎柱だ。立派に死ねば認めてくださるに違いな、」
「違います…!」
桜は体を離すと杏寿郎の顔を見上げた。
視線の先の杏寿郎はいつもの覇気が無く、感情を読みにくい暗い瞳は酷く危うく見えた。
「槇寿郎さんは……もう杏寿郎さんを認めてます。ただ、死んでほしくないから鬼殺隊を辞めてほしいと考えてるんです。」
本当なら槇寿郎の口から言わせたかった事だったが状況が状況であった為そうも言っていられず、桜は必死な目を向けながら杏寿郎の胸に手を当てた。