第50章 すれ違い
「……杏寿郎さん…分かっていると思いますが今の杏寿郎さんのままでは以前の槇寿郎さんのようになりかねません……。私は数年のうちに…いえ、もしかしたら一年もかからないうちにあなたの元から去るんですよ。」
その言葉に杏寿郎の瞳の色は暗くなる。
桜はその色を隠そうとしない杏寿郎に喉をこくりと鳴らした。
杏「分かっている。」
「…………わ…私が去ると話したとき…、『俺も生き残る可能性が高い訳ではない』と仰ってましたが…だからって捨て身のむちゃな戦い方しちゃだめですよ…。槇寿郎さんも千寿郎くんもいるんですからね……。」
嫌な予感が拭えなかった桜が迷いながらもそう念を押すと 杏寿郎は只々表情を変えずに桜を見つめ返した。
杏「俺は立派に炎柱の、俺の責務を全うする。それは煉獄家に生まれてきた時既に決まっていた事だ。父上も千寿郎も覚悟は出来ている。」
その声音と雰囲気から ただ立派に戦うだけではなく最終決戦で生き残る意志がそもそも無いように感じ、桜は激しい焦燥感に駆られた。
「覚悟ができていても傷付かない訳ではありません。千寿郎くん毎日泣いちゃいますよ。」
杏「俺の元を去る君がそれを言うのか。」
杏寿郎はそう言うと困った様に固まった桜を起こして抱き寄せた。