第50章 すれ違い
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「杏寿郎、さん……っ、杏寿郎さんってば……、」
杏寿郎の口付けはなかなか止まず、桜は杏寿郎の胸を押しながら口が離れる度に杏寿郎の名を呼んでいた。
「杏、…っ………杏寿郎、くん…?」
杏「どうした。」
もしやと思って呼び名を変えると杏寿郎はいとも容易く顔を離す。
「もう…。……さっき言ってたことだけど、杏寿郎くんが抱えているものは依存じゃないと思います。私しかいないから特別に思えてしまうだけで…。」
杏「それは…どういう事だろうか。」
「おそらく、弱い面を見せる事に慣れていないから『依存している』と感じたんだと思います。私達は弱い面を見せ合えているだけで……でも、それは珍しいことではない筈なんです。いつか他の方にも見せられるようになると思いますよ。だから、」
杏「君だけで良い。」
(……………………それじゃ……、だめだよ………。)
桜は自身がいなくなった後の杏寿郎を想って眉尻を下げた。