第50章 すれ違い
杏「そう思っているうちに担当を俺に変えてもらう。いくら何でも恋慕の情を抱かれた事のある男と同じ部屋で寝させるなど許し難い。」
「実弥さんはそんな感情、」
「 "不死川さん" 、だろう。君は彼が頬を染めた姿を見たことがあるか。一緒に居たのならそれがどれだけ珍しい事なのか分かる筈だ。」
「それは……そうですが…………でも、…でも、 "実弥さん" は杏寿郎さんと違って寂しい思いをさせないですよ。一緒にいて精神的に良いのは杏寿郎さんじゃなくて実弥さんなんじゃないですか?」
桜は初め 杏寿郎の空気にたじろいでいたが、途中からふと我に返ると不服そうに眉を寄せながらそう言い切った。
それを聞いた杏寿郎はあからさまにショックを受けた顔付きになる。
杏「君は先程『寂しさを埋めてもらった男から離れられなくなっていたらどうしていたのだ』と言っていたが、それは本当にもしもの話なのか。依存しているように聞こえるが…。」
「そういう訳じゃ……でも…だったら……、寂しくさせなきゃよかったじゃないですか…。」
杏「それは…すまない。本当にすまなかった。二度としない。だが………、俺は君に依存している。不死川の元に送り出せそうにない。」
そうはっきりと告げられると桜は少し動揺しながら杏寿郎の不安定な瞳の色を見つめた。
(随分とわたしに弱い面も我儘な面も見せてくれるようになった。小さい頃からそんな事したことなかった人なんだもの…そう "勘違い" してしまうのも無理はない。でもそのくらいなら私だって……、)
杏「桜…?依存と言われ、流石に気持ちが萎えてしまったのだろうか。」
「……いえ。私も…杏寿郎さんのこと言えないので…。」
桜がそう小さな声で告げると杏寿郎は目を丸くさせて固まった。
そして暫く経った後、『そうか。』と短く返事をしてから拒めない桜を見つめながら口付けをした。