第50章 すれ違い
それを見た杏寿郎は起き上がれないように桜の肩を押さえたまま口付けようとする。
しかし桜が横を向いて頑なに拒んだ為 眉尻を下げながら顔を離した。
杏「桜、彼は駄目だ。初めて会った時から彼が君を見る目は特別なものだった。恋慕の情を抱いて君の笑顔に頬を染めた姿を俺は見たことがある。」
「………………え……?」
桜は少なくとも今は妹として見られている確信があったが 杏寿郎の言葉を聞くと何とも言えない恥ずかしさから顔を真っ赤にさせた。
杏「…君は本当に彼を慕っていないのか。その顔はどう見ても………、」
杏寿郎はその先を言えず、目を瞑ったまま首を横に振る桜をただ見下ろした。
杏「彼に……癒やしてもらっていたのか。時透とは違って不死川は屋敷にきちんと帰るだろう。彼には継子も一緒に住まう家族も居ない筈だ。君は……そこに…二人で暮らしていたのか。寝室は別だったのか。」
そう問いながら杏寿郎は手だけでなく片膝もベッドについた。
それによってベッドがギッと軋むと質問を拒むように顔を背けて目を瞑っていた桜の肩が跳ねた。