第50章 すれ違い
俯いて表情を隠す桜を見ると 杏寿郎は自業自得故に行き場のない煮えくり返る様な感情を抑えながら額に青筋を浮かべた。
杏「手を握られただけか。……抱き締められたのか。一度だけか。二度か。三、四…、」
桜は何も答えなかったが杏寿郎は様子を見ながら質問を続け、抱擁の数が数え切れない程であることを把握すると酷い後悔から眉を顰めた。
杏「やはり名を教えてくれ。あちらが勘違いをしていたらどうする。きちんと伝えなければ、」
「本当に大丈夫だから…!私のこと女として見てないもの!」
杏「そんな筈がないだろう!!!」
杏寿郎に話せば無一郎と実弥に恥ずかしい面を見せることになると直感した桜は頑として二人の名を出さず、杏寿郎はその様子に眉を寄せた。
杏「何故そこまで庇う。情が移って、」
「違います!!もういいじゃないですか…。」
杏「そういう訳にはいかない。勘違いをしていないなど君に分かるとは思えない。」
その言葉に今度は桜が眉を寄せた。
「そのくらい分かります。姉や妹のように思ってくれてるんです。」
杏「一人ではなかったのか……。」
杏寿郎の呆けた声を聞くと桜は自身の失言に眉を顰めた。