第50章 すれ違い
「もし私が寂しさを埋めてもらった男の人から離れられなくなってたらどうしてたんですか。」
杏「すまない。……誰かに埋めてもらったのか。」
そう問われると桜は頼れる弟と兄のようだった無一郎と実弥を思い出す。
そしてその様子を眉尻を下げながら見ていた杏寿郎に気が付くとにこっと微笑んだ。
「当たり前じゃないですか。慣れない時代で友人も少ない中、旦那さまの浮気の噂を聞き続け、当の旦那さまは時間があるはずなのに会いに来てもくれないとなれば心が擦り減ります。」
杏「な…………誰だ……名を教えてくれ………。」
「いやです。」
桜はここぞとばかりにしたり顔をすると少しスカッとしながら部屋を出ようとする。
しかし大人しく見送る筈もなく、杏寿郎はパシッと桜の手を掴むと再び引き寄せた。
「わ、……ふぐっ!!」
杏「今回は全て俺が悪いと分かっているが、君の答えを聞かないと問題が解決しない。誰にどこまで…どの様に寂しさを埋めてもらったんだ。」
杏寿郎は桜を再び腕の中に収めると意志の強い声色でそう尋ねた。
「名前まで教える必要はないかと…。寂しくて辛くなった時、精神的に支えてもらっただけですよ。」
杏「………会話だけか。」
その言葉に桜は分かり易く固まった。