第50章 すれ違い
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し「上手くいったようですね。」
無傷であるのに『不死川さんの治療をします』と言い張って隣室に入り耳を澄ませていたしのぶはにっこりと微笑みながら実弥を振り返った。
実「…盗み聞きなんてすんなァ。用が無いなら俺は出る。」
その "出る" が部屋ではなく屋敷をだという事を察するとしのぶは見送りに付いて行った。
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「ありがとう…。」
桜はそう言いながらも腕を緩めず 甘える様に杏寿郎の胸に頬擦りをした。
その時、何となく感じ取った気配からパッと顔を上げると そこにはやはり嬉しそうな笑みがあった。
それを見た桜の眉は自然と寄る。
「味を覚えないでくださいね。甘えて欲しかったらその時に言って下さい。もう距離を置かれるのはごめんです…。」
杏「分かってはいるが…大変愛らしいのもまた事実だぞ。まるで迷子になっていたところを見つけてもらった幼子のようだ。」
「迷子じゃなくて杏寿郎さんが放ったらかしにしただけですよ。」
その冷たい声に杏寿郎は笑みを浮かべたまま固まった。