第50章 すれ違い
「そういえば『自身の気持ちを優先した』とか『欲が出た』なんて勘違いしやすい事を言っていましたが あれは何の話をしていたんですか?」
急に温度が低くなった桜の声を聞いた杏寿郎の頬に冷や汗が伝う。
杏「すまない……君に甘えて求めて貰いたくて愛情表現を抑えようとした。君の話をしていた女性にそれを相談したところ『そんな事をする必要はない』、『どうしてもするのなら三日が限度だ』と釘を刺されたのだが…欲が出て増やしてしまった。」
「…………欲って…そんなこと…。それで三日が三週間に…?あんなに『わざと仕向けたら怒る』って言ったのに…。」
そう言う桜の声は杏寿郎の予想と異なって只々呆然としたものであり、冷たくはなかった。
(指輪は戦いで壊れて、女性隊士さんには私について惚気てて、それで私に求められたくて行動してた……だけだったんだ。)
桜は目の前の男の熱意が 布団の中で初めて出会った時から何も変わっていない事を知ると、愛おしさや安堵、寂しさや不安からの反動などで心の中がぐちゃぐちゃになり 再び顔を埋めて何度も背に回した手に力を込めた。
一方、杏寿郎は大して怒られなかった事に首を傾げながらも桜を抱きしめ返していた。
杏「桜……大丈夫か。」
「大丈夫…じゃなかったけど、杏寿郎くんの胸の中にいるとすごく落ち着くの。だからもう少し……。」
その言葉に杏寿郎は黙って頷くと桜の背を優しく撫で続けた。