第50章 すれ違い
「誰かまでは分からないけれど、『あんな表情の炎柱様は見たことない』って皆言ってました…。…それから……、……………。」
いくら待っても質問と回答の数は合うことなく、桜はとうとう完全に口を閉じてしまった。
それが意味する事は明白であった為に杏寿郎は眉を顰めた。
一方、桜は下手に何かを話せば失言をし 事をいたずらに大きくする可能性があると考えて沈黙を選んだ。
杏「あの様子の時透と不死川が居たのならおかしな事は起きなかったと思うが……いや、毎晩手を握られ口説かれているらしいな。」
「それより本当に女性隊士さんに心当たりはないんですか…?」
杏「…隊士……?…女性隊士と言えば君についての惚気話をしていた者しかいないぞ。彼女は既婚者で旦那を大層愛している。噂にはならないだろう。」
杏寿郎がどの様な顔で惚気話をしていたのかを想像した桜は噂の人がその女性なのだと確信した。
そして安堵すると共に『炎柱様が見せたことのない表情』は自身がさせていたのだと知り胸を熱くさせた。
「……………よかった……。」
杏「話は終わっていないぞ。君の方はどうだったんだ。」
「そういえば何で会いに来てくれなかったんですか…?そもそも会えてればこんなにすれ違わなかったのに……。」
話をはぐらかされて眉を寄せていた杏寿郎はその質問にビクッと体を揺らして固まる。
その様子に桜はスッと目を細めた。