第50章 すれ違い
杏「…離れるつもりはないぞ。そう伝える為に此処へ通っていた。ユキが君の居場所を教えてくれなくなったのでな。」
「……………………噂の……女性は……?」
その問いに杏寿郎は首を傾げる。
それが焦がれ望んだ自身の知る姿であった為、桜はまた泣き始めると頭の上に沢山はてなマークを飛ばす杏寿郎に走り寄り 胸に顔を埋めた。
杏「他の女性というものには心当たりが無いが指輪なら…、」
杏寿郎は一旦桜の体を離すと胸ポケットから壊れてしまった指輪を取り出す。
よくよく見ると杏寿郎の左手の指はどこか形が歪に見えた。
「……指輪こわれてる……手、怪我したのですか…?」
杏寿郎は桜の言葉遣いが戻らない事に少し眉尻を下げたが、頷くと手を握ったり開いたりしてみせる。
杏「一度変に折れたそうだ。こうして動かすと未だに違和感がある。」
それを聞いて青くなると桜は慌てて杏寿郎の指を撫でた。
杏寿郎はその真剣な顔を見て少し微笑み、治してもらった左手でそっと桜の頭に触れた。
少しだけ緊張した気配はしたものの桜がそれを受け入れると杏寿郎は安堵から肩の力を抜いた。
杏「俺が指輪を壊して外したせいで他の隊士達から関係を疑われたのか。しかし他の女性との噂とは何だ。恋仲とも思われなくなったという事は俺がその女性とそういった仲に見えたということか。仕事を理由に断って皆素直に引き下がったのか。」
安堵の次に湧いてきたのはいくつもの疑問と懸念だった。