第50章 すれ違い
(……………………うそだ……うそだ………。)
「…き、気持ちを…………優先、したって……、」
杏「ああ。……ある女性に話をしたんだ。話しているうちに…欲が出た。本当にすまない。」
「…………そんな……何言って…………。」
言葉を交わしてもすれ違いは続き、桜はショックからとうとう涙を流してしまった。
驚いた杏寿郎が手を伸ばそうとするも桜はパッと立ち上がって更に距離を取る。
「何で…そんな簡単に触ろうとするんですか…… "煉獄さん" 。」
震える声で絞り出す様にそう言うと杏寿郎の体が動揺したように大きく揺れた。
杏「…………本当にすまなかったと思っている。」
杏寿郎が言い訳することなく謝ると、桜は一瞬目を大きくさせたあと再び大粒の涙を溢し始めた。
「なんで……。あなたが…指輪を外すから、皆に関係を疑われて、他の女の人との噂がでてからは恋仲とも思われなくなって…、仕事を理由に断るしかなくて……、理解が追いつかないままどんどん流されて…いまだに訳がわからないのに……。」
杏「指輪なら、」
「 "約束" 使います。何でも聞いてくれるって約束…。使うから……離れないでください…他の人なんて選ばないで……。」
その言葉に杏寿郎は張り詰めた空気を解いてぽかんとした表情を浮かべた。
その表情を見て桜もずびっと鼻をすすりながら何かが食い違っていたのだと直感した。