第50章 すれ違い
実「落ち着きは取り戻したみたいだから後はお前が決めなァ。」
桜は瞳を揺らしたままではあったが いつまでも逃げている訳にはいかないと思い、口をきゅっと結んで頷いた。
そしておずおずと実弥の横に出ると杏寿郎に目を遣る。
杏寿郎はいつも自身が贈ったリボンでハーフアップに結っていた桜が 違うゴムで低く一つに結っている知らない姿に目を見開いた。
そして視線を左手に遣ると実弥の言葉通りそこにあった筈の指輪もない。
贈った羽織りも身に着けていない。
一ヶ月という歳月とこの三つの変化で随分と桜が遠く感じられた。
杏「……胡蝶に部屋を借りよう。治療が終わったら来てくれ。大事な話がある。」
そう言うと杏寿郎は屋敷へと入っていった。
桜はそれを見送るとへたりとその場にしゃがみ込んでしまった。
それに眉を寄せた実弥に肩を貸してもらってなんとか立つと桜は青い顔のまま病室へ向かったのだった。
「はい、これで大丈夫ですよ。あまり無理なさらないで下さいね。実弥さん、終わりました。」
隊「あ、ありがとうございます!あの、桜さん…っ、」
漸く桜が何かしらの答えを出せるかもしれないと言う時にくだらない用で時間を割こうとした隊士に実弥が鬼の形相を向けると その隊士は縮み上がって口を閉じる。
「………………?……では失礼しますね。」
こくこくと頷く隊士に桜は再び首を傾げながら病室を後にした。