第9章 鍛錬
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―――ハッ ハッ ハッ……
ユキの体は驚くほど優秀で、五十周過ぎてからやっと息が上がってきた。
(犬みたいな息づかいになる…)
千寿郎は杏寿郎みたいな常人離れした速さではなかったが、それでも一般的に考えたら十分速い。
千寿郎にも何度も追い越された。
二人とも声をかける余裕も、微笑みかける余裕もなくただひたすら走る。
―――七十周目
桜の脚は目に見えて動きが悪くなってきた。
(体が痛い…。疲れないのかなって期待しちゃったけど、本物の神様じゃないもんね…常識よりは遥かに優れてるんだからありがたく思わないと……。)
―――八十五周目
(ここから一段ときつくなりそう…。)
千寿郎はもう屋敷へ入り、眉尻を下げながら腕立てや腹筋などをしている。
杏寿郎はそれも終えて今は木刀を振るっている。
門の前を通った時、絶望的な差を感じさせる杏寿郎の声が聞こえて桜の視線がフッと落ちた。
(……っ!…ネガティブな気持ちになってる!正念場で弱気なこと言ってたらだめだ!本当に達成できなくなる!!)
桜は歯を食いしばって自身に喝を入れると、遅くなり続けていた脚に力を入れ直した。