第9章 鍛錬
桜は前を向いてタッと走り出す。
本当に走り出したばかりの時だった。
――ヴンッッ
何かがすごい勢いで桜の横を通り過ぎた。
「………?」
それは聞いたこともないブレーキ音を立てて数歩先で止まる。
杏「桜?見かけないと思ったら今出てきたのか!」
横を通った鮮やかな色の影は杏寿郎だった。
「…えっ。杏寿郎さん…?も、もう一周しちゃったんですか………。」
(そんな…人に出来る事じゃないような……。)
それを聞き杏寿郎は笑顔のまま軽く首を傾げる。
杏「桜、五周遅れだぞ!!」
「……………………。」
(あ、あまりにも現実離れしてる…呼吸を使ったらこんな事が出来ちゃうの…?それとも杏寿郎さんが柱だから……?)
桜は真っ白になりそうな頭でそう考えると、とりあえず杏寿郎に "ゆーあーくれいじー" と言ってから走り出した。
杏「む?」
(………この人のいる世界は異常だ…!!走る以外のこと考えてる余裕なんてなかったんだ!!!)
段々動き出す頭。それにつれて脚も速くなる。
杏「桜!いいぞ!!頑張ろう!!」
立ち止まって首を傾げていた杏寿郎は、桜の後ろから嬉しそうに声をかける。
――ヴンッッ
(ふふ…でも悲しいくらいすぐ追い抜かれるなあ……。)
少し泣きそうになりながらも、桜は更に脚に力を込めた。