第9章 鍛錬
桜はどじだし運動神経も良くはなかったが、ユキの体で過ごしてみて気が付いたことがある。
(人間のときと比べ物にならないくらい身体が軽いし疲れない……あと、足音もほとんどしない……。)
まだこの体に慣れていないのにそう感じるのだ。
(繰り返し動かせば前線でもそれなりに立ち回れるかもしれない…!!)
そんな可能性が見えて桜は少しうきうきしていた。
――――――
杏「む!千寿郎も桜も気合十分だな!!」
桜と大急ぎで着替えてきた千寿郎は一緒に庭へ降りて杏寿郎を待っていた。
そんな二人を見て杏寿郎は満足そうに笑う。
杏「よし!ではまず体を温めなければな!!」
そう言うと杏寿郎は腕を組んで大声で言い放った。
杏「外周百周ッ!!!!!」
「え…………?…百周走るつもりで気合い入れろ、みたいな事ですか…?」
杏「桜!何してる!!もう始めるぞ!!!」
杏寿郎はそう言うとバッと門の外へ消えてしまった。
「…え…ちょっと待ってくださ……外周ってこの広いお屋敷の外ってこと、ですか……。」
(あまりにも非現実的な数字すぎないかな…。)
戸惑いながらも桜は走れるところまで走ろうと決め、門へと向かう。
(初めて敷地外に出る…この姿で外に出ていいのかなあ……。)
そう質問したいのに杏寿郎はもう見えない。
顔だけ門から出してきょろきょろと様子を見ると、住宅街だからなのか、時間帯のおかげなのかは分からないが、少なくとも見える範囲内に人はいなかった。
(…ユキの姿は見るからに神々しいもの。見つかっても堂々としていればきっと相手は怯むよね。)
桜は外に対して余裕ができている自分に驚く。
「よし!!頑張ろう!!!」
桜は元気よく声を上げると走り出した。