第44章 ※ずるい人
杏(桜が俺を慕ってくれている事は分かっているし、物静かな男が好きという訳ではないとも言ってくれた。だが…、彼女の生い立ちを見ればどうして穏やかな男に惹かれたのか分かる気がする。)
杏「実際、俺は君に何度も怪我を負わせたにも関わらずそれを黙らせてしまっていた。君は『嫌』とは言わなかったが これは我慢させていないと言えるのか。君の "嫌と思う基準" が普通と異なり怪我をしても嫌と言わなかった場合、俺はまた君に怪我をさせる。」
「そんな深刻な話じゃ…、」
杏「俺は深刻な話をしている。怪我などさせない男が現れれば君はもっと……、」
(……もっと…………?)
杏「……君は、俺よりもその男にもっと惹かれるのではないか。対して俺は君の過去を思い出させてはいないか。怪我をさせ、それを黙らせている。悪意が無いのは彼等も同じだったと聞いたが。」
「…………そんなこと考えてたんですか…。」
杏「物静かな彼は…君に怪我などさせなかったのだろう。いつも穏やかで君の癒やしとなり、支えになったのではないか。」
杏「怯えた君に去られたらと思うと心臓が嫌な音を立てる。俺は俺らしく君を大事にしようと思っていても知らず知らずの内に君を壊してしまう。するとどうしても君が好いていた男がちらつく。」
桜は教えてくれた事に対して礼を言うように杏寿郎の髪を優しく撫でながら横に来るように浴衣を引っ張った。