第44章 ※ずるい人
杏「……君の言う『本当に嫌』がどの程度なのかが分からない。もし『嫌と伝えるほどではない、我慢すれば済む話だ』と思って許していたのなら…、その我慢が重なればいつか二人を繋ぐ糸が切れてしまうかも知れないだろう。君が黙っていた事を知った以上 尚更慎重にならざるを得ない。」
「………………。」
その時桜は 謙虚でありつつも常に実力相応の自信をしっかりと持っている杏寿郎が自身に対してだけ妙に自信の無い様な行動を取る事に今更疑問を抱いた。
(最初はたぶん…私の体がおかしいから心配したんだ。それからお外に出るようになって男の人に二回攫われた……。立道くんの事知られたのも大きい気がする。さっきも "物静かな人" ってワードを出してたし気にしてるのかも…。)
その桜の読みは当たっていた。
杏寿郎は恋愛経験の乏しさから、桜に交際を断られた直後に天元から『声が大きいから断られたのか』と真っ先に言われた冗談を重く捉えていた。
そして、ただでさえ自身の特徴が恋愛において女性からは敬遠されるものだと思っていたところに桜の初恋相手が真逆の性格である事を知ってしまったのだ。