第44章 ※ずるい人
「怖いと思うことはなくなりましたし、こういう時はあまり確認しなくてもいいかと…。」
杏「体力が追いつかないと言っていたのだから疲れはするのだろう。痛い思いをさせていた事に全く気が付かなかった事もある。」
「それは…、どっちみち杏寿郎さんを差し置いて寝たり出来ませんし、痛みは『痛い』と言えば杏寿郎さんは絶対に止まってくれます。問題ないです。」
それを聞くと杏寿郎は口を薄く開いたまま固まり眉尻を下げる。
杏「……もしや俺の体が鎮まるまで今まで無理をして合わせていたのか。」
「え…何でそんなこと……。む、無理なんて、した事はな…、」
杏「桜、嘘は無しだ。」
杏寿郎は心配そうな目で桜の顔を覗き込むと右手で頬を優しく包みながら少し首を傾げた。
杏「胸を強く噛み過ぎた時も華が痛んだ時もそうだったが、何故その様に気を遣って黙ってしまうんだ。言ってくれれば直すように努力するので我慢をしないでくれ。」
「本当に嫌だったらちゃんと言ってます…!」
その言葉が本心から出た物だと分かったが、杏寿郎の胸の中には不安の様なもやもやとした感情が残った。