第44章 ※ずるい人
「私、そんなに信用ないですか?大体 物静かな人が好きってわけじゃないですし、杏寿郎さんは立道くんのこと引きずりすぎです。」
珍しく本気の怒りを孕む声を出した桜に杏寿郎は小さく体を揺らす。
そして男の名を出した事に面白くない気持ちを持ちつつも眉尻を下げた。
杏「本当にすまない。君が動揺して返事をした時にしてはいけない早とちりをした。反省する。……なので許してくれないだろうか…。」
叱られた子供が様子を窺う様な見慣れないしおらしい表情に桜は ぐっと再び眉を寄せる。
(う……い、今そういう顔するなんて……、)
「…………ずるい。」
桜はつい弱々しい声を口に出してしまい慌てて口を手で覆った。
しかし、杏寿郎がその言葉にただただ不思議そうな顔をすると落ち着きを取り戻し、同時に怒りもむくむくと大きさを取り戻す。
そして桜は強気な気持ちを取り戻すと再び文句を言おうと杏寿郎の胸に手を当てて ぐっと顔を近付けた。
「…んむっ」
身を乗り出した桜に 『もう許された』と勘違いをしていた杏寿郎が『ねだられた』と更に勘違いをして優しく口付けると、桜はパッと顔を離し、腕を突っぱねて杏寿郎から距離を取った。
そしてその行動に驚く杏寿郎を見つめながら手の甲で口を隠し、真っ赤になって眉尻を下げる。