第44章 ※ずるい人
「い、いきなり何して……わたし、怒ってるんですよ。」
その言葉と動揺から迫力を欠いた声に杏寿郎は首を傾げて赤い頬を見つめた。
杏(怒っているというよりは恥じている様に見えるが…。)
杏「すまない。もう許してくれたのかと勘違いをした。許せそうにないか…?許してもらうにはどうしたら良いだろうか…。」
(また…その顔………。わざとではないのかな…。)
杏寿郎のしおらしい顔に桜は眉尻を更に下げる。
一方、許しの言葉を与えないまま黙り込んでしまった桜に杏寿郎も眉尻を下げた。
杏(確かに酷い早とちりをした。どれだけ愛しているかを示す為 桜に体を張らせた事もあるというのに。)
杏「桜、本当にすまなかった。先程の様に足でなど触れたりはしないので抱き締めさせてくれないだろうか。」
その言葉を聞いた桜は 自身の気持ちを疑われた事についてまだ心外に思っている気持ちと、羞恥、そして 杏寿郎の態度に容易に絆されそうになる悔しさでぐちゃぐちゃな心中のまま困った様に目を泳がせる。