第43章 弱いこころ
何も言わない様を無言の肯定と捉えると杏寿郎は再び口を開く。
杏「…丁度、この様に抱き締められて晩年の母上に後を任された。煉獄家の責務について説いて下さったんだ。あれは遺言であり、俺を立たせ続けてくれる言葉だった。」
杏「だが、それを全うしようとすればする程、俺は何かを欠いた。そして それに目を向ける余裕が無かった。千寿郎はまだ幼く、父上は酒に溺れ、一人で呼吸を会得し最終選別に行かなければならなかった。煉獄家の長男として炎柱になる責務もあった。やるべき事が多かったから立ち止まろうと思いもしなかった。」
杏「だが、俺は正常だと思うぞ。」
「…………………え…?」
桜が思わず胸に手をついて顔を上げると杏寿郎は酷く穏やかな表情で見つめ返した。
杏「これまでの人生、感情を押し殺す場面が多かった事は認めよう。だが心を失った訳ではない。」
杏「あの時は任務先に居るという自覚があったからな。当然 今の様に気を抜いた状態ではなかった。それ故に感情が隠れ、望む夢も見なかったのだと思う。」
それを聞いて桜は柱合会議や任務での感情の分かり難い杏寿郎の声を思い出した。