第20章 信頼
宇那手は、産屋敷邸で、最も日当たりが良好な部屋を与えられた。
医者が言うに、高熱と呼吸、動悸の理由を病気としないのなら、過労と栄養失調が原因らしい。実際、宇那手は、鬼の首を斬り落とす力を持ちながらも、身体の密度は胡蝶とそれほど変わらない。
冨岡も、彼女の食が細い事には気が付いていた。
倒れたその日には、見張りを担当していた冨岡と悲鳴嶼が交互に様子を伺い、翌日には、不死川と、伊黒が見舞いに訊ねた。
伊黒は、宇那手が特に厚遇されている様子と、不死川が無言でしばらく傍を離れない事に驚いていた。
宇那手は、倒れた翌日の夕暮れ時に目を覚ました。
彼女は特に寝ぼけた様子も見せず、勢い良く起き上がると、偶々傍にいたあまねに目を向けた。
「申し訳ございません! 私はどのくらい眠っていたのでしょう?!」
「落ち着いてください、火憐さん!」
あまねは驚きつつ、宇那手をもう一度押し倒して寝かせた。
「昨晩倒れ、約一日です」
「⋯⋯良かった。お館様に仕事を頼まれておりましたので。ご迷惑をお掛けしました」
「もう、良いのです」
あまねは、宇那手の髪を撫でながら、悲しげに囁いた。
「貴女は私よりも幼く、本来であれば、守られる存在。もう、十分です。全てを知った上で、嫁いだ私とは違います」
「⋯⋯一度燃えてしまった木が、元には戻らない様に、私も燃えているのです」
宇那手は天井に手を伸ばした。
「何時か燃え尽きてしまう事は、分かっています。今、私は、何処まで燃え上がれるか、その瀬戸際にいます。水を掛けられ、消えてしまうのか、天まで届くのか⋯⋯。灰は土に還り、命を生みます。中途半端に焼け残ってしまうよりも、この命を無駄にしたく無いのです」