第19章 焰
「構わない。元より、ここを戦場にするつもりだった。十二鬼月についても、一度に滅さない限り、新たに補充されてしまう。短期総力戦を考えている」
「はい。その点に於いても、私の存在はお役に立つはずです」
宇那手は、産屋敷から離れ、正座しなおした。
「鬼舞辻には、浅草の貿易会社の月彦宛に情報を送ると伝えました。私の情報をアテにしている内は、浅草周辺に足止めが出来ます。ある程度、動きを封じる事が出来ます」
「本当に、賢い子だね。火憐の努力を無駄にしない様、私も蝋燭では無く、炎になろう。⋯⋯今は、義勇の傍にいなさい。次の任務まで、今度こそ、外出は固く禁じる。良いね?」
返って来たのは、沈黙だった。
「⋯⋯火憐?」
数秒経って、ドサっと音が響いた。産屋敷が床を這う様に手を伸ばすと、宇那手の髪に触れた。彼女は倒れていた。
「あまね! あまね!!」
産屋敷は、大声を出し、胸を押さえた。彼自身呪いの進行で、肺が死に掛けているのだ。しかし、あらん限りの声で助けを求めた。
並々ならぬ異常を察知した妻は、すぐに駆け付けて来た。
「どうなさいました?!」
「あまね、この子の様子を診てくれ!」
「火憐さん!」
あまねは、すぐに気を失っている彼女を抱き起こした。
「火憐さん! 火憐さん!」
いくら呼び掛け、頬を叩いても、目を覚さない。
「意識が戻りません! 熱が⋯⋯それに呼吸が⋯⋯」
「すぐに私の医者を呼ぶんだ」
産屋敷は指示を出し、娘達を呼び寄せた。彼女らは、宇那手の師範を呼びに向かった。
「全て、私の責任だ⋯⋯」
誰にも見せることなく、産屋敷はどうすることも出来ない無力感と怒りを露わに、畳を殴り付けた。