第19章 焰
宇那手は、悲鳴嶼に頭を下げた。
「鬼舞辻からは、敬意を感じました。今後も私と取引を続ける意向を示しました。⋯⋯鬼舞辻に嘘を吐くのは、不可能に近い。私は自身の本音も伝えました。私は並々ならぬ力を付けたため、短命であるとお館様に告げられました。それを理由に、鬼殺隊が上弦の鬼を一体も倒せない様なら、見限り、生き長らえるために、鬼の血を受け入れると申し出ました。勿論、鬼になったとしても、人を傷付けるつもりはありません。序列を争う様に見せ掛け、鬼の体で可能な限り十二鬼月を倒します。ですが、万が一、自我を失った場合には、首を落として欲しいのです。最高戦力の悲鳴嶼様にしか、お願いできません」
「なんと⋯⋯なんという⋯⋯悲しい覚悟⋯⋯」
悲鳴嶼は静かに涙を流した。宇那手は深く頭を下げた。
「もし、私が自我を失った場合、時間を稼いでください。私は少量、藤の毒を摂取しています。鬼に変貌すれば、毒の効果が現れ次第、動きが鈍るはず。柱の戦力を損わずに、殺せるはず。⋯⋯師範には、到底お願い出来ません」
「その意見は尊重出来ない」
産屋敷は、笑みの消えた表情で否定した。彼は怒りを込めて、冨岡に向き直った。
「継子が鬼になり、人を襲った場合、師範が責任を取る必要がある。その点は、他の柱も譲らないだろう。私も譲れない。お前が、火憐を殺しなさい。そのための鍛錬をしなさい」
「⋯⋯御意」
冨岡の声は掠れていた。継子を殺すために、自身を鍛えるなど、苦痛以外の何物でもない。
産屋敷は、溜息を吐き、宇那手に向き直った。
「恐らく、この様な理由だと思って、義勇を呼んだんだ。許しておくれ。⋯⋯鬼舞辻は、何故、無限列車と指定をしたのかな?」
「他にも情報を与えた見返りとして、下弦ノ壱の行動を制御すると、約束してくださいました。私たち人間にとって、家畜が減れば食料に困る様に、人間を皆殺しにしてしまえば、それを食する鬼舞辻にとっても、困った状況になります。下弦ノ壱は、何人殺しても構わないという考えの様でしたので。⋯⋯禰豆子が、人を喰わずに生き長らえていることは、敢えて伝えませんでした」