第19章 焰
昼過ぎ、宇那手は、満身創痍で産屋敷邸に辿り着いた。汽車の中で睡眠を取ったとは言え、鬼舞辻本人と対峙し、異能の鬼を斬り、走りまくって駆け付けたのだから。
入り口に立つと、隠が現れ、彼女を屋敷内へ案内した。驚くべき事に、部屋の中には産屋敷、悲鳴嶼に加え、冨岡の姿もあった。心なしか目元が腫れている。
「火憐、君の体調については、義勇から聞いていた。何故外出した?」
産屋敷は、案じている様にも、怒っている様にも思えた。
宇那手は正座をし、真っ直ぐ彼を見た。
「どの様な燃え方をしても、炎の消える時間が同じなら、私はか細い蝋燭では無く、激しく火を噴く山の様に生きたいのです」
「⋯⋯それで、浅草では、何をして来たのかな?」
「鬼舞辻無惨と取引をして参りました」
「なんと!」
悲鳴嶼は、驚愕の声を上げた。宇那手は意に介さず、産屋敷だけを見ていた。
「下弦ノ壱が動くのは、約一月後。場所は汽車⋯⋯無限列車です」
「その情報を、どうやって引き出したのかな?」
「幾つか条件を提示したのですが、まず私の身体を差し出しました。この痣を見せたのです。鬼舞辻は、私に興味を示しました」
「何を考えている!!」
産屋敷の叱声に、悲鳴嶼も、冨岡も飛び上がった。彼らの記憶にある限り、産屋敷が声を荒げた事は一度たりとも無い。
「その場で殺されていても、おかしく無かったのだよ!!」
「申し訳ございません。ですが、鬼舞辻は、私に興味を示すだろうと、確信がありました」
宇那手は、静かに答えた。
「鬼舞辻が嘘を吐いていない事は保証します。こちらの情報もある程度流しました。下弦ノ壱の討伐には、煉獄様をお送りすること。彼が、柱の中間よりやや上の実力者であること。これは鬼舞辻にとっても、価値のある情報です。こちらの戦力を測る目安になります。加えて炭次郎以下三名の名も伝えました。現状、禰豆子を喰ったところで、こちらの痛手にはならないことも。恐らく現時点では、炭次郎と禰豆子は見逃されるはず。そして、悲鳴嶼様をお呼びしたのは、私が鬼に変貌した際、首を刎ねていただくためです」