第18章 鬼舞辻無惨
恐らく、宇那手が渡した藤の御守りが鬼を遠ざけたのだ。
「全集中、水ノ呼吸、拾弐ノ型、凪、反転」
一秒も経たずに、蹴りが付いた。灰の様な臭いが漂い、天地が元に戻った。
「拾弐ノ型?!」
男は、顔色を更に失い、深く頭を下げた。
「申し訳ございません! 貴女が隊士とは見抜けませんでした!」
「無理もありません。隊服の型が変わっていますし、あの時は羽織を纏っていましたので。立てますか?」
宇那手は、男を引っ張り上げた。うどん屋の主人は気を失っている。
「すみませんが、私は次の任務がありますので、この地を去ります。後は任せます。⋯⋯貴方はもしや、浅草出身者でしょうか?」
「はい!」
「月彦という人物に近付いては行けません。甲の位を持つ者として、接近禁止令を出します。彼は人に扮した鬼です。麗様の、前の旦那様を殺したのは、月彦本人です。貴方も殺されますよ」
宇那手は刀を収め、踵を返した。男は、小柄な少女と自分の間に、天と地程の差がある事に気付かされた。
「あの! 名前を教えてください!!」
「宇那手火憐。当代水柱の継子です。では」
宇那手は、走りながら時計を確認した。後十五分で最後の汽車が出る。ギリギリ間に合いそうだ。