第18章 鬼舞辻無惨
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町の外れまで来て、宇那手は胸を押さえた。心臓が破れそうな程音を立てている。
殺されると思った。危険な賭けだった。首に触れられた瞬間、鬼にされるかと思った。
鬼舞辻がその気になれば、宇那手を裏路地に引き摺り込み、殺すことなど造作もなかっただろう。運が良かったのだ。
バサリ、と音を立てて、鴉が肩に舞い降りた。
「町の外れ、南! 異能の鬼!」
「南?!」
宇那手は、息を呑んだ。うどん屋のある辺りだ。
「隊士はいるの?! 階級は?!」
「壬二名」
「分かった」
列車の発車時間までは、まだ余裕がある。宇那手は迷わず駆け出した。鴉は飛び立った。
彼女が駆け付けると、額に傷を負った隊士が、うどん屋の主人を庇い、膝を着いていた。
「大丈夫──」
宇那手は息を呑んだ。戦っていたのは、汽車の中で会った男性だった。
「貴女は⋯⋯」
彼は涙を流しながら、宇那手を見た。
「助けに来ました。階級は甲。もうご安心を」
宇那手が答えると、何と天地が逆転した。足が地面に張り付く様に、空へぶら下がっている。隊士が動けなくなったのは、これが理由だ。
「傷を塞いで。鬼の血が入っては大事です。もう一人いると聞きましたが」
「喰われました!」
男は布を受け取りながら、そう答えた。宇那手は、そんな情けない姿を見て、苦笑した。
「もう大丈夫です。この鬼は、人間だった頃、耳に病を抱えていた様ですね。耳が病に冒されると、平衡感覚が無くなるのです。⋯⋯少し離れた位置にいますね」