第18章 鬼舞辻無惨
彼は宇那手の痣に手を当てた。彼女は小刻みに震えている。当然だ。鬼舞辻が少し爪を立てれば、彼女は鬼に変貌する。そして、恐らく血に順応するだけの能力はある。
「何が条件で、お前の気は変わる?」
「鬼殺隊が、上弦の鬼を一体も倒せない様な無能集団でしたら、見切りを付けるつもりです。即、無惨様を探し出し、此方の情報を全てお渡しします」
「良い。此方の情報も与えてやろう。確かに私にとっても、有益な物であった。その点を評価する」
無惨は手を離し、宇那手の目を見た。
「下弦ノ壱は、人の苦痛や叫びを喜びと感じている。出来るだけ多くの人間を殺したい筈だが、ある程度は此方で制御しよう。私の血を与えると言えば、従うだろう。無限列車だ。一度人里を離れてしまえば、外部からは干渉しにくい」
「ありがとうございます」
宇那手は、深く頭を下げた。どんなに怯えていても、彼女は笑みを崩さなかった。
鬼舞辻は不可解に思い、珍しく自ら人間の感情に踏み入った。
「何故、今すぐ私の元へ降らない?」
「私は、まだ鬼殺隊員です。それに、柱の可能性も信じています。何より、貴方様自身に両親を殺されておりますので。⋯⋯下弦ノ壱が動くまでは、一ヶ月程度ですね? 血への順応に体力を使っているはず。しばらく捕食の時間が必要です」
「概ね合っている」
「では、その答えを頂いたお礼に、青い彼岸花についてお話しします」
宇那手の申し出に、鬼舞辻はかつて見せたことの無い程、人間の言葉に興味を示した。彼女は淡々と、事実を口にする。
「現状、青い彼岸花は、自然界に存在しません。近い色でも、紫と呼ばれます。青い薔薇の品種改良が、国外で人の手により行われていますが、完成の目処は立っていません。もし、自然に偶然咲いたとしたら、青とは程遠い、黒に近い色だと思われます。花に携わる者はそれを、青と呼びます。もし、無惨様が、真っ青な彼岸花を直接ご覧になられたのだとすれば、変異した白い彼岸花に、青い色水⋯⋯薬を吸わせた物を煎じた可能性があります」
「彼岸花では無く、薬の方を探るべきだと?」
「はい。元々彼岸花は、人体に害のある、毒を持っています。その性質を変える、何かと調合した可能性があります。つまり、彼岸花の解毒剤に鍵があるかと」