第18章 鬼舞辻無惨
朝になると、宇那手は、昨日の事など無かったかの様に明るさを取り戻していた。
屋敷を去る産屋敷と、同行する隠、胡蝶を見送り、懲りずに騒ぎ続けている善逸を怒鳴り付けて黙らせ、炭次郎と向き合った。彼はもう少しで、機能回復訓練に参加出来そうだ。
「調子が良さそうで何よりです。少し力を借りたいのですが、良いでしょうか?」
「はい!」
炭次郎は、ベッドの上に正座をした。宇那手は、満面の笑みを彼に向けた。
「私は鬼舞辻無惨の気配や匂いを知っています。その気になれば、探し出せるのです。彼が、どんな姿に化けていても。ですが、もう少し情報が欲しい。彼は、浅草でなんと名乗っていましたか?」
「⋯⋯確か、月彦です。奥さんと子供もいました」
「職業は?」
「分かりません。あの⋯⋯鬼は人と結婚出来るのですか?」
「結婚は出来ますが、恐らく子供は作れません。人間と近種の類人猿でも、受精は不可能ですし。もし可能であれば、鬼舞辻は、自分の子孫を増やしまくっていたでしょうね」
宇那手は、ゾッとする様な事を言い、立ち上がった。
「助かりました。ありがとう」
「あの!」
炭次郎は、慌てて宇那手を引き止めた。
「冨岡さんは⋯⋯? 此処にいるんじゃないですか?」
「まだ寝ています。貴方に会うつもりは無いと思います。貴方が一人前になるまでは。⋯⋯ですが、もし、此方に来られたら、伝言をお願いします。八年目を信じている、と」
「⋯⋯なんのことですか?」
「貴方が知る必要はありません。お元気で」
宇那手は、師範を真似て、自ら話を切り上げた。
炭次郎の事は、嫌いになれなかった。彼は勇気があり、強固な意思を持っている。人好きする愛嬌もある。しかし、今はそれだけだ。現状、足手纏いとしか言えない。中途半端な存在だ。