第17章 七年
「意味はある。都合も良い」
冨岡は、肺を損傷した宇那手を気遣い、額に口付けをした。
「触れるのを堪えていた。すぐ隣で眠るお前を、朝が来るまで抱いていたかった。お前にとって意味の無い行為であったとしても、俺はこの身体の熱を発散したい」
「⋯⋯ごめんなさい。貴方に近付いた事を許してください。こんな⋯⋯こんな事になるなんて、思ってもいなかった!」
宇那手は観念して泣き叫んだ。
「私は、また貴方を苦しめてしまう!! 傍にいるだけで、削られていく命を、貴方に突き付けてしまう!! それでも私は、貴方の傍にいたいんです!!」
「良い。許す」
「師範! このまま私を抱きしめてください! 不安で眠れそうにありません! 最期も⋯⋯貴方の腕の中で迎えたい⋯⋯」
「分かった」
冨岡は宇那手の身体を抱き起こし、自分の膝の上に抱えた。宇那手は穏やかな顔付きになり、静かに目を閉じた。
数分も経つと、彼女は静かに寝息を立て始めた。
────
胡蝶は、深夜に産屋敷が外へ出る事を強く反対し、彼等を屋敷に泊める準備を終えた後、宇那手の病室へ足を運び、扉越しに会話を聞いてしまった。
痣の意味と、寿命の話は産屋敷本人に聞かされ、口止めをされた。胡蝶自身、並々ならぬ衝撃を受けた。
塞ぎ込んでいた冨岡を変えた宇那手は、残りわずかな命を抱えて泣いていた。冨岡の苦しみも、痛い程分かった。
「姉さん⋯⋯。どうしてみんな、私を置いて逝こうとするのでしょうか⋯⋯」
鬼殺隊に入隊した以上、長く生き残るには、より力を付けるしかないと思っていた。だから、カナヲにも、鍛錬を怠らない様指示した。
しかし、強くなればなる程、命を削られるとは、なんと皮肉で悲しいことだろう。
鬼を滅すると決めた時点で、人は寿命を奪われるのだ。理不尽に。
「やはり、私は鬼を許せません。鬼なんていなければ、戦う必要すら無かった⋯⋯。許せない⋯⋯」
彼女は壁に手をついて、床に雫を落とした。