第17章 七年
「では、次に。鬼舞辻が本気で我々を倒そうと思ったら、何処に現れると思う?」
「一番は当然産屋敷邸です。ですが、あそこは、現在柱が一人常駐しています。戦力を削る事を考えるのなら、狙われるのは、刀を打つ職人です」
「なるほど⋯⋯ね。確かにその通りだ。何か手を打たなければ⋯⋯」
「その件については、私も考えておきます。難しい案件ですので、すぐにはお答え出来ません。お許しください」
「良い。これまでは、全て一人で考えて来たのだから。助言を受けられるだけ、救われているよ。⋯⋯私からは以上だ。深夜に訪ねて悪かったね」
産屋敷は穏やかに微笑み、宇那手の頭を撫でた。
「難しいと思うが、今は何も考えず、ゆっくり休んでおくれ。明日も、休息していて欲しい。また鴉を送るからね」
「はい」
宇那手は、素直に横になり、布団を被った。
産屋敷は、息子に手を引かれ、部屋を出て行った。
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宇那手は、天井に手を伸ばした。想定外だった。少なくとも後、十年は生きられると考えていたが、その時間さえも残されていなかったのだ。
(師範から離れるべきだ)
冨岡は、情に厚い。きっと、宇那手の死を目の当たりにすれば、動揺する。
しかし一方で、一人で死ぬのは寂しく、怖かった。叶うことなら、最も愛する人の腕の中で、安らかに眠りたかった。
彼女は布団を頭まで被り、声を殺して泣いた。特別な存在になど、なりたくなかった。人の領分内で強くなり、師範を支える存在でいたかった。
突然、布団を奪われ、宇那手は顔を手で覆い隠した。優しい手が額に触れる。
「冨岡さん⋯⋯」
「独りで泣くな」
「もう⋯⋯私のことは、捨ててください。私は闘う為に生まれて来た人間です。⋯⋯人に愛される星の元に生まれて来た人間ではありません。私は、もう時期死にますから⋯⋯」
「断る」
冨岡は、宇那手を抱き起こし、額に唇を押し付けた。
「まだ、七年もある。俺の様な人間には、七年も幸福な時間があれば十分だ。⋯⋯話してくれ。他に何を抱えている?」