第17章 七年
「下弦の壱については動きが読めません。索敵の意味を込めて、自由を与えていると考えます。鬼舞辻の性格からして、捨て駒として扱われていると思われます。お館様の人選は、この点を考慮しても正しいかと。いきなり柱を複数人送ってしまえば、こちらの最高戦力がどの程度か、相手に悟られてしまいます。もし、階級の最も低い炭次郎様が討ってしまえば、鬼舞辻もしばらくは様子を窺うはず。時間稼ぎが出来ます」
宇那手の淡々とした答えと、全幅の信頼を以って耳を傾けている産屋敷の姿は、輝利哉にも影響を与えていた。
幼い彼も、宇那手を信頼に足る人物だと断定していた。
「では、どの柱を送るべきだと思うかな?」
産屋敷は、袖で涙を拭い、自分の為に必死で頭を動かしている宇那手を見詰めた。
彼女は顎に手を当て、熟慮した。
「⋯⋯煉獄様です」
「理由は?」
「煉獄様の実力は、師範以上、かつ煉獄様の言葉から察するに、悲鳴嶼行冥様以下。柱の中では中間か、やや上位程度では無いでしょうか?」
「私は、義勇がそれ程劣っているとは思えないが、冷静に考えた上での答えかな?」
「はい。私も師範が技能の面で、取り分け劣っているとは考えていません。ですが、あの方は優しい方です。特に炭次郎様の事を気に掛けています。倒す事よりも、守ることを優先してしまうでしょう。それから、出過ぎた言葉かと思いますが、胡蝶様は、柱の最高戦力と併せて、最後まで残して置くべきです。この先怪我人も増えるでしょう。高度な治療を施せる胡蝶様は、必要不可欠な存在です」
「⋯⋯うん。そうだね。君の意見を尊重しよう」
宇那手という女は、炎の様な激しい感情と、水の様にしなやかな発想を持ち合わせていた。どんなに心が燃えていても、傷付いていても、理論的に物事を考えられる。
実戦から離れ、俯瞰する様に隊士の動きを見ている産屋敷にそれが出来るのは、当たり前の事だ。しかし、宇那手は、自ら戦い、痛みを知りながらも、同じ様に考える事が出来る。