第17章 七年
「炭次郎と禰豆子の存在を柱に認めさせる条件として、私は十二鬼月を倒す様に、と言った。あの時点では、下弦の十二鬼月を一体、という意味だったのだが、状況が変わってしまった。可哀想だけれど、下弦の壱と戦わせるしかない。見込みはあるが、そこで命を落とせば、それまでのこと。現状禰豆子は、喰われてもそれ程脅威にはなり得ない」
産屋敷の言葉を聞き、宇那手はしばらく黙った。言葉だけを聞けば、冷たく、突き放す様な物だが、本心は別の所にある様に思えた。
「⋯⋯辛い決断をされましたね」
数秒の間を置いて、宇那手の口から発せられた言葉に、産屋敷は喉が塞がる様な、言葉に出来ない苦しみを覚えた。
彼女は産屋敷の手を取り、俯いた。
「ある意味、鬼舞辻は正しかった。そこそこの強さを持つ下弦と剣を交える事で、見込みのある剣士が力を付ける機会を奪った。ですが、飛び抜けた才能を持つ剣士を、日の元に曝す危険を高めたのです。炭次郎様は、幸い累と直接交戦しています。その点、十二鬼月を軽んじておらず、他の隊士よりも、戦う能力は優れているはず。乗り越えられれば、鬼殺隊は更なる力を手に入れられるでしょう。何が何でも、倒していただかないと。その可能性を信じましょう」
「⋯⋯ありがとう」
産屋敷は、静かに涙を零した。その様子を見て、輝利哉は目を見開いた。父が泣いた所を見たのは、初めてだった。
「火憐、私はこれまで人に意見を求めた時、肯定か否定の言葉しか受け取る事が出来なかった。私の立場が、周囲にそういう反応しか取らせる事が出来なかったんだ。だけど君は、共感と許しを与えてくれる。心が救われる⋯⋯。しかし、私は私の役割を果たさないと行けない。もう幾つか、意見を聞きたい事があった」
「なんでしょう?」
「鬼舞辻も十二鬼月も神出鬼没だ。しかし、下弦の鬼を葬った事も鑑みると、本気で我々を潰そうと用意をしている風にも思える。火憐はどう思う?」